アトピー性皮膚炎の治し方がわかる本

あとがき

本書においては、現在のアトピー性皮膚炎に対する医学界の是非および、それを取り巻く環境(マスコミ等)の是非にいて述べてきた。しかし、現在の医学界及びマスコミと全面的な対決をするために本書を出版したわけではない。

昨年から続く、民間療法バッシングを見ていて強く感じることは、患者不在で論議が行なわれている事である。あくまでステロイド剤の肯定を行なうのは医師もしくは,その医師によって紹介された患者たちである。その報道を行なったマスコミ自体が広くアンケートなどで患者を調査する事などしていない。

特に先日「暮らしの手帳」で紹介された記事は、とても「暮らしの手帳」が取材したとは思えない内容であった。全て登場した医師の言うことのみを鵜呑みにし、その裏付けを独自の取材で行なうことは一切していない。まあ、その取材した医師の監修(チェック)を受けた記事では仕方のないことかもしれないが。

このように、現在、報道の主流を占めている意見は、あくまで「ステロイド擁護論」の先生方のものであり、それを否定する「患者」の声には全く耳を傾けていない。

しかし、最近新潟大学の安保教授より、臨床実験を行なったステロイド剤に対する警鐘の論文が発表された。大変興味深い内容であり、要旨を一部ご紹介する。安保教授は、新潟大学医学部医動物学の教授だが、今回発表した「アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱」の中で、こう述べられている。

「ステロイドホルモンやその外用剤が広く臨床に使われるようになって40年~50年の歳月を経ている。ステロイドホルモンを使用するいずれの疾患でも、使用の早期には著し治療効果を表したかに見える。しかし、その後経過とともに、疾患のコントロールができなくなり、増量を強いられステロイド依存症に移行する事が多い。アトピー性皮膚炎もこの例外ではない」

「しかし、これから述べる理由によって今日の日本のでは、この子どものアレルギー疾患の自然治癒反応が妨げられる傾向にある。ステロイドホルモンを使用した場合である。これから述べるように、ステロイドホルモンは人にそなわった自然治癒力を完全に奪う力をもっている。これが青年期に入ってもアトピー性皮膚炎が治らず難治化していく理由となっている。」

「このようなステロイドの依存がくると、酸化コレステロールの反応により炎症性サイトカインがストレスによって多量に放出されるようになり、独特の炎症像がつくられていく。元のアトピー性皮膚炎とは異なり、ステロイドを塗った場所に特異的にすき間のない炎症が出現してくる。全身反応なので、ステロイドを塗らない場所にさえ広がる。ステロイドが切れたときにである。誤解のないためいうが、痒くて掻いたから炎症がでたのではなく、ステロイドが切れたために一瞬にして炎症が引き起こされ痒くなるのである。」

「ステロイド使用によって激しい免疫抑制状態になっている。つまり、リンパ球の低下と顆粒球増加のパターンになっている。ステロイドを使用した患者はそもそも免疫抑制状態になっているので、免疫抑制剤の外用薬を使うとさらに病状は深刻化していく。」

「小さな子どもにステロイドを塗ると成長抑制さえくる。離脱によって、一時的にリバウンドによる細菌感染などもでるが、その後アトピー性皮膚炎がよくなるだけでなく身長もぐんぐん伸び出す。明るい笑顔も戻る。」

これらを含めてアトピー性皮膚炎の原因及び離脱のメカニズムなどを、マウスなどを使った事件、臨床などから科学的に導き出し最後に結論付けている。「いずれにせよ、リバウンドの苦しみを味あわせたのはアトピー性皮膚炎にステロイド外用剤を使うということをしてしまったためなのである」と。

実際、医学的見地でステロイド剤の問題点をここまではっきりと論破したのは、おそらくはじめてではないだろうか。現在「ステロイド剤は長期運用してもコントロールすれば安全」と声高々に述べる医師たちはどのように反撃するのだろう? 尚、安保先生は、ステロイド剤そのものの批判をしているのではなく、現在の使われ方の問題点を指摘しているのであって、医師側の根拠のないステロイド信仰に歯止めをかけようという姿勢が伺われる事を付け加えておく。

私が述べたいのも、ステロイド剤の是非のみを追求したいわけではない。当然、基本的には漠然としたステロイド剤の長期運用には反対である。しかし、もしかすると、中には少量で短期間、上手にステロイド剤を使用してコントロールしている医師がいるということも事実であろう。私が述べたいのは「患者」主体の論議ができないのか、ということである。マスコミもそれらステロイド剤の使用を推進する医師たちに紹介された「ステロイド剤肯定」の患者だけではなく、長期間のステロイド剤を「医師の指示通り使用してきた」副作用に悩む患者にも取材すべきである。

民間療法バッシングの報道は決して医者のため、マスコミのためにあるのではない。あくまで患者のための報道であろう。であるならば、マスコミ独自が調査し報道することが大切ではなかろうか。医師たちもまた、自分たちの診療に都合の良い意見を患者に押し付けるのではなく、患者主体に立った医療が行なえてこそ、多くのアトピー性皮膚炎患者が民間療法に頼らない日が訪れるのではないだろうか。

私もマスコミや現在のステロイド剤に重点を置く医師達と対決したいのではなく、本当ならば逆に手を結んで、患者の実態と意見を十分に聞き入れながら、ケースバイケースによる治療法の確立ができる事、そして患者側に、より選択肢が増えることが、患者の本来望むべき治療につながるものとしんじている。

本書が、治療を行なう側の論議ではなく、患者のための論議に発展するためのきっかけになることを願ってやまない。

2000年 11月

小川 秀夫

小川秀夫の湯治の相談・カウンセリング