アトピー性皮膚炎自然療法

克復のための5つの必要条件

(1)治すことが最優先

それでは次に、これからアトピー性皮膚炎を「治すための必要条件」について述べていこう。主な必要条件は五つであり、これを満たすことができるかどうかが克服への鍵になる。

第一条件はアトピー性皮膚炎を治すことにより他に大切なことはない、という心構えになっているかどうかである。「確かにありとあらゆる治療法はやった。しかしどうしても治らないし、このままでは生活に差障りがあり、将来が不安意なってきた、学校、仕事どころではない、何が何でもアトピー性皮膚炎を克服することが先だ」という決意があるかどうかである。

「大きくなれば自然に治りますよ」と言われた昔とは違い、あらゆる生活環境が劣悪化した現代では放っておくだけでは完治は難しいものである。また薬物依存により難治化した患者の身体は、幼児期~少年期~成年期~壮年期とアレルギーマーチを繰り返し、増悪と軽快でさらに難治化するばかりで、アトピー性皮膚炎や喘息の症状が手枷足枷となって、その人の人生を支配することになってしまう。 
 
幼児期の発症から大学を卒業し社会人になるまでは何とか薬物でコントロールできても、予期せぬ副作用が出現し「障害者」となる可能性もある。また初めて体験するストレス社会の厳しさに身体がついて行けず、その負荷を毎日蓄積する結果となり症状はさらに増悪することになる。

このような時期では、薬物使用により、ある程度はまだ粉飾ができる。したがって、見た目は薄黒い顔をした常人に見えるが症状としては末期症状であり、全身におでき状のデコボコした膿包が吹き出し、異常に倦怠感が強く、また痒みのために夜は眠れず社会生活ができる身体ではない、いずれ社会人として脱落する日が目にみえている。

薬物ステロイドを使って炎症や痒みを抑え込み、人生にとってはわずかな日々を凌いだその結果が、これから始まる人生を厳しいハンデを背負って生きていかなければならないということは、あまりにも大きな代償ではないだろうか。これらの副作用における障害を『難病』アトピー性皮膚炎患者だから仕方がないと片付けられて結局は泣き寝入りを強いられてしまう患者が、あまりにもかわいそうである。

このような時点になって「離脱」してしまうと、よほどの根性がない限り這い上がることは難しい。私は若い彼らの社会生活の現実をそしてその実態を数多く見てきた。

中には一流大学を出て、一流企業や官庁に就職し、いずれは有望な国の人材として成長するであろう若い彼らの哀れな、そして悲惨な顛末を数限りなく見てきたのである。

思いもかけず、ある日突然発症した疾患により、その人の人生が変わる。このようなケースは人間社会にはよくあることだが。しかしアトピー性皮膚炎のように発症後の治療のあり方によって「天と地」の違いが生じ人生の分岐点となってしまう疾患は他に例をみない。したがって発症時期に、それもごく軽症のうちに治すことが大切なのである。

なぜならば、初期段階は薬物の強いダメージを受けていないために回復しやすい状態だといえるからだ。そのためには、たとえ軽症であっても躊躇せず治すための必要条件を備え、即実行する勇気が必要になってくる。
学校、受験、勉強、仕事と、それぞれ大切なことは分かるが、それよりアトピー性皮膚炎を治すことを「優先」する気持ちがすべてを解決する近道である。

この事実をしっかり理解しなければならない。
私は医師から「あなたの自然療法の実践者は、かたくなに薬物を拒否する、何か変な宗教にでも入信しているのではと思えるほど」とか「先生の自然療法、湯治療法でアトピー性皮膚炎が治るのは、その手法の強引さにある」と云われることが多い。確かにその通りかもしれない。

医者は治療においてまず患者の生活の優先を第一に考える。その患者の生活に支障をきたす身体の苦痛を薬物を使って取り除く治療を施す。なぜならば患者がそれを求めるからである。

しかし私の場合は違う、自然療法に集う人はたとえ初めて来訪する人であってもアトピー性皮膚炎に対する「正しいものの考え方」を理解し、それを治すことにより他の大切なことはないという人々だからである。彼らは「真の健康体」と薬物によって症状を抑えた一見健康な「擬似健康体」は、まったく次元が違うものであることを学習し、良く理解してる。

したがって、自然療法を行なう人々は治すための条件の満たし方によって時間差はあるがそれなりに確実に克復を勝ち取っているのだ。つまり治せない、治らない例外者はもともと「友の会」には入らないし、もちろん考え方の違う人の生活指導は私たちにはできないため、そうした入会者はもちろんいない。つまり一方的に売り込む営業行為は一切しないし、ものの考え方が正しくない人々に自然療法を勧めることなどとても出来ない。

なぜならば、安易な気持ちや考え方で自然療法を行なってもそれらの人々が治ったためしがないからである。したがって後々トラブルになることが分かっているような人々を迎え入れる事は絶対にしないのである。

言い換えれば、「アトピー性皮膚炎を治すことより他に大切なことはない」という、治るため、治すための必要条件をすべて満たしている患者の集まりであるから途中、心ない人々からどのような非難中傷があろうとも中断せず最後まで頑張って治っているだけのことである。

しかし2年~3年~5年と長く苦しい戦いの日々を共に泣き、共に苦しみ、共に悩み最後の克復まで誘う担当カウンセラーの苦労はいかばかりかと察するに余りある。このような命がけのカウンセリングが奇跡を起こしているのである。

(2)充分な睡眠をとること

さて、第二に大切な条件は、毎日の生活習慣の中で充分な「睡眠」をいかにとるかということである。

アトピー性皮膚炎という疾患は炎症、痒みという症状の特異性から患者は昼夜問わず痒みを感じ、そのために夜は熟睡できずそのほとんどの人が常に睡眠不足の状態に陥っている。一日の睡眠時間が4~5時間程度で生活している人もいれば、ほとんど眠れずに一日に3~4時間の睡眠で「生きて」いる人もいる。

その結果毎日睡眠不足の状態で学校や仕事に出かけることになる。アトピー性皮膚炎が難治性であるということは、実はこの睡眠不足が大きく関与している。睡眠は「癒し」である。毎日、自身にかかる負荷(ストレス、疲れ等)を処理し、明日への体力を備えて健康体を維持するためにも、また病んだ身体を健康な身体に戻すためにも必要不可欠なのは充分な睡眠をとることである。つまり病を癒す基本は薬物投与などではなく毎日充分な睡眠をとることにある。

したがってアトピー性皮膚炎を治すためには、その患者の学校や仕事などの私生活を優先させ無理に規則正しい生活を送らせることではなく充分な睡眠の確保、すなわち朝は自らが自然に起きるまで誰も起さず寝かせることが大切なのである。

個人差はあるが副腎という臓器は夜の10時~11時には副腎皮質ホルモンの産生・分泌をストップし、明け方午前3時~4時頃から、また産生を始る。そのために、午前1時~3時頃まで掻き続け、眠れない、熟睡できない人でも明け方あたりからはいくらか眠りが得られるのである。しかし、ようやく深い眠りに入っても、幼稚園や学校、仕事など自分の生活を優先しようとすれば二時間も三時間もしないうちに起きなければならない。

中にはほとんど朝まで眠れず、そのまま起きて学校や仕事に向かう人もいる。このような生活ではアトピー性皮膚炎は永久に治らないことを理解してほしい。

睡眠時間はわずかでも確かに生命維持は行える。しかし毎日2~3時間の睡眠では、健康維持は出来ない。場合によっては、それらのわずかな睡眠時間が続くことにより肉体的・精神的疲労を蓄積させ「過労死」または「突然死」を招くことも充分ある。

このように睡眠は健康という面を考えた場合、身体に果たす役割から考えてみても、ある一定時間以上は確実に必要なものである。したがって、「睡眠」で病体を改善していくためには、健康維持以上の睡眠時間が必要となってくることはいうまでもない。

個人差があるので一つの目安として捉えていただきたいが、病体改善のための睡眠には、幼児で約12時間、小児で約10時間、中学生以上の場合には最低でも8時間が必要である。ちなみに、健康維持の睡眠とは、それぞれ約1時間程度をマイナスした時間であり、それ以下の場合には生命維持の睡眠しかとれていないと考えてよい。

人生の3分の1は、寝ている時間である。毎日、充分な睡眠が確保できない人や、常に睡眠不足の人は、活力、生命力がない状態といえる。アトピー性皮膚炎患者に限らず、それらの人は顔色や肌色が悪く、皮脂の減少にともない皮膚はザラザラで吹き出ものが多くなる。

さらに、常に倦怠感が強く、免疫力、抵抗力、治癒力の低下が認められ、一般的に病弱で、一年に数回も風邪をひくような身体になってしまっている。また毎日の生活の中では集中力・思考力・決断力・判断力が鈍り常に消極的となり前向きの生活が難しくなり、場合によっては、視神経に異常をきたし視力が著しく低下することもある。

このような睡眠不足が長く続けば、当然「不定愁訴」「慢性疲労」の症状も強く自律神経失調の症状はさらに進み、外からの身体にかかる負荷により結果的に取り返しのきかない「突然死」や大病つまり癌や生活習慣病を患うことにもなってしまう。

人間の身体を日常維持していく上では、内分泌・ホルモンが重要な要素を占めている。この内分泌・ホルモンの充分な産生と分泌のためにも充分な睡眠が必要不可欠である。

人間は眠る時、脳が休むノン・レム睡眠(深眠)から入り、次いで身体が休むレム睡眠に移る。そしてそれらが交互に現れることになる。人間の身体にはもともと体内時計があって、だいたい明け方にはレム睡眠が多くなり自然に目が覚める。

しかしアトピー性皮膚炎患者のような自律神経失調症の人の中には、そのリズムを狂わせている人が多い。例えば、周囲からは眠っているように見えても本人はまったく眠っていないと思っていることがある。これは、身体は眠っているが、痒みの症状により脳が覚醒と休息を繰り返している状態であり、レム睡眠が続きノン・レム睡眠に入っていないか短いことを示している。

熟睡が得られず、次から次へと夢を見ることが多く睡眠が浅くなる。こうして睡眠のリズムが狂いアトピー性皮膚炎患者は毎日充分な睡眠を(たとえ睡眠にあてる充分な時間を与えても)とることができないのである。自律神経失調による重症不眠者では、起きている時は強い眠気や睡魔が襲ってきても布団に入って横になると、とたんにその状態が冷め、目がらんらんと輝き冴えてくるというケースが多い。

このように長い間睡眠不足の状態で生活すればするほど「慢性不眠症」としてさらに強い症状に陥り回復はますます難しくなってくるのである。こうした状況に陥ると、鎮静剤、精神安定剤、睡眠剤、睡眠誘導剤などの薬物を使ってこれらの状態をしのぐ人がいるが確かに1日~2日程度の効果はあるかもしれない。

だが常用が続くと身体の異常状態(吐き気・悪寒・手足のしびれ・精神異常・言語のもつれ・胃腸障害)が現れ、病状は増悪しさらに難治化する起因をつくってしまうことになる。

(3)不感温度の湯治が代謝を促進

先にも述べたが、昔から日本人は毎日お風呂に入る習慣、湯治をする習慣があった。

若い人の間にはシャワーだけですます人もいるが、普通は身体を洗って42度~43度の高温で湯船につかり、2~3分間身体を温めて出る、これが単に入浴といわれているものである。

これに対し、「湯治」とは、人間の身体の体温により近い37度~39度の不感温度(熱くもなければぬるくもない温度・俗にいうぬるま湯)で30分~60分と長い時間しっかりと身体を温め、新陳代謝を盛んにし、多量の汗をかくこと、多量の汗がでるような身体に変わるまで毎日これを繰り返し続けることをいう、読んで字のごとく「湯」で「治す」、ひとつの治療法なのである。温泉を使用すれば「温泉湯治」であり、入浴剤などを使った普通のお風呂であれば、ただの湯治となる、これが第三の条件である。

この湯治という治療法は、ありとあらゆる病気を治す基本であり、秘訣なのであるが、これを理解する人々は現代では少なくなってしまった。

慢性、または難治性疾患者が薬物を控え、毎日くる日も、くる日も一日3回~4回トータルで3時間~4時間、不感温度で身体を温め多量の汗をかく習慣をつける。脱水症状にならないように水分、塩分の補給はもちろんバランスのよい食生活を心がけ充分な睡眠をとる。このような生活をして1年~1年半経過した時点で患者の身体がどのように改善されるかを、血液検査などの医学的見地から臨床データとしてとり続けた医師は世界中に一人もいない。

したがって、その効果は誰も知らないし、またその結果に目を見張るものがあっても医師たちは信じようとはせず黙殺するだけである。薬物投与を施す治療法でない限りどのような難病が治ってもまったく興味に値しないものであるらしい。

例えば悪性腫瘍の患者については、温泉湯治は「禁忌症」とされている。確かな理由は分からないが、おそらく身体を温めることによって代謝が促進される、そうすると癌細胞の増殖が顕著になると判断しているのではないかと思う。もしそうだとすると、それは間違いである。なぜなら、癌細胞は嫌気性であり酸素のない場所でも生きていける。従って酸素のない場所ではその増殖は活発だが、酸素が豊富な場所ではその増殖は逆に遅いのである。

したがって温泉湯治によって新陳代謝が活発になりまた血流も盛んになり酸素、免疫物質、栄養物が豊富に身体のすみずみまで届く状態になれば癌細胞より正常細胞の方が強くなり、すべての癌細胞は免疫によって駆逐される。つまり人の持つ正常な免疫細胞はガン細胞より強いと言うことである。これが温泉湯治を行なうと癌腫瘍が縮小したり、消退するという理由である。確かに進行性の癌で末期状態にあり、抵抗力もなく自分の免疫力、自然治癒力そのものが働く状態でないのであれば、温泉湯治を行なう気力や体力もなく、それは逆効果となる。したがって「禁忌症」とするのは当然である。

しかし、まだ体力も気力も充分にある癌患者にとっては「湯治」によって身体の代謝を促進し、充分な栄養と充分な睡眠をとり、生体防衛機能、免疫力を高めることが実は癌を克服するためには最高の代替療法なのである。最近では人々の口づたえに、温泉湯治で癌が治ったという話を聞くことも多くなったはずである。

癌に対しての通常療法の主流は、外科治療・化学療法・放射線治療の三つである。皮膚癌、子宮癌など、腫瘍の部位を切除する外科治療の効果は比較的大きい。

しかし、術後再発予防として、また増殖する癌細胞を殺すという抗がん剤、放射線療法では、癌細胞に与える損傷より、正常な細胞に与える損傷のほうが大きく、結果的に免疫系に大きなダメージを与え、免疫力、抵抗力、自然治癒力の低下を招き、逆に死期を早める結果を招いている場合が多い。前章でも述べたが、癌患者の場合、手術後のリハビリつまり体力増進に温泉湯治は最適である。

現に北海道のフォレスト・イン摩周苑ではそれらの人々の短期、長期、滞在施設湯治場として好評である。大自然の中に生き、いきる歓びに気付き、健康な身体になるために学び、自らを鍛え、再発に対する心配・不安を取り除き、「湯治」に励むことさえ出来れば、人の身体に備わる「内なる治癒力」が徐々に健康体へと誘ってくれる。

癌に限らずどのような疾患でも、それを治す治療は、患者の身体に備わっている「治癒力」を活性化させる手法でなくてはならない。現代の癌医療が、癌を治すために最も大切なことは、術前、術後に関わらずいかにして患者の免疫力を活性化させ、正常細胞の増殖をはかり癌細胞を攻撃し殉滅させるかである。そのためには、術後体力が備わってくればリハビリとして昔ながらの温泉湯治が最適であり癌を治す補助療法として、また代替療法として既に注目を浴びて来ている。

最近の動脈硬化症の治療では、血管壁にこびり付いたコレステロールなどの固まりを血管よりも小さいカッターを動脈内に入れて削ったり、レーザーで溶かす新手法が増えているそうである。しかし新手法により、血管内にこびりついた薬物、老廃物、コレステロールなどは確かに一時的には減るかもしれないが、動脈硬化の原因は血管にあるのではなく、その人の長い間の食生活等、日常の生活習慣の中にあり、その結果、動脈にそのような異常が発生したのである。

したがって、何も危険を伴うそのような一時的な対症療法を行なわなくても湯治という、血流を良くし新陳代謝を活発にする治療法を行なえばどうだろうか、当然、血流がよくなれば、それらのこびりついたコレステロール・老廃物、血栓、結石、は汗や尿、便で排泄される。

常に血流がよい状態であれば、多少コレステロールの摂取が多かろうと血管壁にこびり付くことはない。このように血流をよくし代謝を促進させることによって清浄な血液にすることは、すべての慢性病や血流障害を起因とする疾患にとっての対症療法となり、原因療法ともなるのである。

現に東洋医学では、針・灸・マッサージ・電気治療・カイロプラックティックなど、その治療の主眼とするところは、これら血液の循環不全を正すことである。いずれにしても、血液の循環不全を正すという考え方は、病を癒すために最も大切なことであり、それらのすべての治療法を包括したものが湯治療法なのである。

このような「湯治」により身体の内分泌系・自律神経系・免疫系の歪んだ機能や低下した機能を正すことが、「癒しの術」であることに気付いてほしい。そしてそれらをすぐ実行しながら、実体験に基づいた学習を行なってほしい。10日、15日、30日と経たないうちに、それらの人々が素晴らしい大発見をすることは間違いないからである。

(4)健康維持の食生活が大切

四つ目の条件は「食生活」である。「医食同源」という言葉のように「食」は「医」なりであり、人間の活動にとって一番大切なものは、毎日の食生活だといえる。食生活の仕方、あり方によって健康維持できるか、または病体に陥るかが決まってしまうと云っても過言ではない。

昔の食生活では「自然食」つまり有機栽培された素材が中心に用いられていたため、寄生虫の問題はあったが、身体に「悪い」ということはなかった。しかし現在では身体のために安心して食べることの出来るものは何一つない、すべてが「危険食品」だらけである。残留農薬からはじまり、食品添加物・防腐剤・増量剤。着色料、脱色剤など、あらゆる化学薬品の使用により、食品本来の味覚は失われ、素材は変質してしまっている。

だからといってあれも危険食品だ、これも危険食品だと食べないでいたら、食べるものがまったくなくなってしまう。完全に自然食のみの生活に徹することも、この時世では困難なことであり、そのような「危険食品」を食べながらも、生きていかなければならない時代なのである。

また、自然食でなければアトピー性皮膚炎は治らないというわけでは決してない。確かに自然食にしたほうが回復期間は早いようだが、アトピー性皮膚炎を引き起こしている原因が食物の残留農薬や添加物にある患者でもない限り、自然食でなくとも回復は確実に得られる。このことは、食べ物の残留農薬や添加物だけでなく殺虫剤やホルムアルデヒド、防カビ剤など、住環境、衣類に含まれる化学物質も同様である。

つまりこれらの汚染された現代の環境の中で生活していく際、化学物質に警告信号を現すための体質(アレルギー体質)があることは、それらの影響を微弱な段階で阻止することは有効である。しかしその一方で先に述べた通り、さまざまな社会状況からみていくと、逆にごく微量な「危険食品」「化学物質」を上手に解毒処理、消化、排泄する「強靭な身体」を作ることの方がより大切なのである。

したがって、ここではアトピー性皮膚炎患者の基本的な食生活について、その考え方を説いて行くことにしよう。アトピー性皮膚炎患者の場合、その幼児期には、免疫のズレた働きにより三大アレルゲンである大豆、卵、牛乳に反応し症状を現すことが多い。しかし少年期、青年期には、食物に限らずハウスダスト、化学物質など次第にアレルゲンの数も増え、その数は無数ともいえる状態になってしまう。

特定のそれも数少ないものに対しての食物アレルギー反応であれば、それを食べないことにより、ある程度症状の出現を防ぐことは可能である。ところがアレルゲンが多くなれば、このような対応は不可能である。したがって自然療法における食生活では、重度のアレルギー反応が出ない限り一切食物制限を行なわないことが原則となっている。

食べることで少々の反応があったにせよ、睡眠、湯治などを含む広い意味での「自然療法」を先行させることにより何を食べてもよい身体、どんな食べ物にも反応しない身体に変えることが出来るからである。

また実際、医師から制限されたり、除去するようにいわれた食べ物でも、過熱処理したり、少量ずつ慣らしていくことにより、それらが食べられるようになったケースは数多くある。このような工夫を行なうと同時にズレた働きをしていた免疫機能を正せば、アトピー性皮膚炎は消退し、何でも食べられるような身体になる。これらの基本を、まずしっかりと理解することが必要である。

次に大切なことは、「生命維持」の食事、そして「健康維持」の食事、そして「健康改善」の食事を考えるということである。食事とは、身体の活動のエネルギーを得るために行なうもので、もちろん生命維持のみを考えるのであれば、食べるという行為により、そのほとんどは充足させることができる。

しかし、必要な栄養の補給がバランスよくできていなければ、身体が病体に陥る可能性がある。そこで次に健康維持の食事を考える必要性が生じてくる。この「健康維持」の食事とは、アトピー性皮膚炎患者に限らず健康な人でも、栄養のバランスの不足により病体に陥らないよう気を付けなければならない食事のことである。具体的には、偏食をしない、糖質、脂質、タンパク質のバランスという三大栄養素の基本を考える、そして、それらの基本栄養素を上手に生かすためにミネラル、ビタミンの摂取を行なう、ということである。

栄養学についての詳しい記述はここでは行なわないが、私がアトピー性皮膚炎患者二千人に実施した栄養調査では、90%の人が、生命維持は行なえても、健康維持は行なえない食生活をしていた。こういった食生活については、アトピー性皮膚炎患者の家族も同様に行なっていると考えられることから、要するに現在の我々日本人の食生活は、長期的にみて健康維持すらも脅かすような内容のものであるといえる。

実際の食事であるが、和食中心で主食である米をしっかり食べることを心がけたい。ご飯とおかずの割合は、平均で七対三くらいが望ましい。

さらにアトピー性皮膚炎の人が食事で身体を健康体にしていくためには、健康改善のための食事を考えることも大切になってくる。アトピー性皮膚炎の原因となった身体の異常状態が食以外の部分にある場合には、健康維持の食生活および原因となったその他の生活の改善が先決であり、健康改善の食事はそれほど考えなくてよい。しかし、その人の身体の異常状態を発生させた原因が食にある場合には、これを必ず行なう必要がある。

具体的には、身体の状況に合わせた栄養の強化である。これは何も健康補助食品などを使えということではない。身体の健康改善に必要な栄養素で、食事で摂れないものなどはない、要は必要な栄養素を考えた食事が大切ということである。先にも述べた栄養調査では、野菜の摂取が少なく、結果的にビタミン、ミネラルの摂取が少ないという傾向がみられた。また動物性タンパク質や菓子類などの摂取が多く、逆にご飯などの糖質の摂取は少なかった。

そこで一例であるが、まず野菜類、ご飯をしっかり食べ、動物性タンパク質は魚と肉を二対一でとり、さらに食物アレルギーが心配な場合には加熱処理を行なって食べる、という工夫が考えられる。ただし、個人差が大きいので、詳しくは栄養診断などで自分の食事内容を確認し、自分に合わせた食事を考えていかなければならないだろう。

このように最低でも健康維持、そして必要に応じて健康改善の食生活を考えることが大切なのである。いうまでもないが、食によって細胞はつくられ、身体は活動エンネルギーを得ている。それらをより良くする、もしくは工夫していくことは、アトピー性皮膚炎を克服していく上だけでなく健康な生活を送るためにも是非考えていただきたい事項である。

(5)適時適切な学習、カウンセリングがすべて

今まで述べてきたすべての条件に共通していることは、アトピー性皮膚炎の患者である当事者に替わってこれらの項目を実践することは誰にもできないということである。

あくまで患者自身が、自ら意識して行なわなければならない。確かに長年アトピー性皮膚炎を患ってきた「時間」は、その人にとっての「習慣」として根づいている場合が多く、それらを変えることは決して容易な事ではない。習慣というものは、それを当たり前に自分が考えているからこそ「習慣」なのである。

しかし、生活習慣が身体の機能の異常を少しずつ引き起こし、その結果、身体がアトピー性皮膚炎を必要としたわけであるから、その習慣自体を変えなければ、いつまでたってもアトピー性皮膚炎を治すことはできない。

そこで、適時・適切な「学習カウンセリング」が五つ目の条件として必要になってくる。つまり変えねばならない生活習慣や生活環境を患者に気付かせ、変えるための実行方法をアドバイスしていくことが重要となってくる。

例えば、仕事が忙しく毎日深夜帰宅するようなアトピー性皮膚炎患者がおり、睡眠不足や身体に「悪影響」を及ばしていたとしよう。このような人は、夜遅くまで仕事をすることを生活のためにしかたがない、避けられない状況として捉えている場合が多い。

しかし当然のことながらアトピー性皮膚炎難治化の原因がそこにあるわけであり、仕事の内容や睡眠時間といったこれまでの習慣を変えない限りアトピー性皮膚炎が良くなるはずはない。とりあえず仕事ができれば良いということでステロイドに頼り、慢性的に使用した結果が、最後は薬でも抑えきれないほどの重症状を招くのである。結局仕事も続けられず入退院の繰り返しで、アトピージプシーの生活に陥ることはいうまでもない。

この場合には、第一条件であげた本人の「考え方」が重要な要素となる。アトピー性皮膚炎よりも仕事の方が大事だと思っている間は、忙しい中に身を置くことになり、治らなくても当然であり「仕事よりアトピー性皮膚炎を治すほうが大切だ、また薬物を使用していたのでは痒み・炎症という症状は抑えられていても、アトピー性皮膚炎という病気そのものはいつまでたっても治らないし、それらの薬物による二次的疾患を患う可能性がある。」このようなことに本人自身が気付かねばならない。

この気付きのためにもカウンセリングによる学習が必要となってくる。深い眠りを得るための湯治の方法、また食事のとり方、運動の仕方など、患者またその家族にとっては学習しなければならないことばかりである。このことからも個々に対応しえるカウンセリングの重要性がご理解いただけることと思う。

現在、医師により行なわれているアトピー性皮膚炎治療の最大の問題点は、このカウンセリングにある。これまでアトピー性皮膚炎の患者が、治すために必要なこれらの知識と情報さらには具体的な方法を通い続ける医者から教えもらったことがあるだろうか。

現在の医療保険制度では、カウンセリングは保険診察の対象にはならず報酬となるレセプト(売上)も計上できない。したがって、一人の患者に一時間も二時間もつきあってカウンセリングをしていたのでは医業としての経営が成り立っていかないのである。

そのため、医者はこれらのカウンセリングを熱心に行なうことができない。したがって医業として成り立たせる最もよい方法として薬剤中心の三分間診療のみを施さねばならないのである。

またこれらの生活のアドバイスを含むカウンセリングでは、100人のアトピー性皮膚炎の患者がいれば、それこそ100通りのアドバイスが必要となる。学生、子供、主婦などその人の私的環境、食生活、入浴の方法、趣味、衣食住にかかわる生活環境、そして何よりも身体に現れているさまざまな異常状態まで、ありとあらゆる点において個人差がある。このような「生活環境」の違う人々に同じ方法をあてはめても、同じように改善することはないのである。

私はこのような点からもあらゆる異常状態に対応するため、その人に合わせた「個別の学習カウンセリング」が最重要だと考えている。

今までにあげた四条件もこの五つ目のカウンセリングがあってこそ生きてくるのであって、それらのうちの一つだけ取り上げて行なってもあまり意味はない。バランスよく四条件を満たすためにも、これらのことが大切なのである。

このカウンセリングは、その他にも重要な役割を有している。アトピー性皮膚炎に限らず患者は、その病気を克服していく上で症状の変化に一喜一憂する。これは周囲の人々も同様である、そのためにその時々の症状がどんな状態なのか、その症状は回復なのか、悪化なのかを的確に判断し常に対処できることが必要である。

前章で述べた離脱症状なども、そのよい例である。たとえ最初に充分な理解を持って薬物からの離脱に臨んでも、やはり実際に離脱症状が現れれば不安な状況は患者だけでなく周囲の人々にも起きてくる。その時に不安を取り除くための適時適切なアドバイスがあるのとないとでは大違いであり、そのような強い離脱症状を乗り切りアトピー性皮膚炎を克服した人々の経験談は大いに勇気づけられるであろう。

このようにカウンセリングは、その時々の患者、家族に対する精神的ケアの意味合いも含まれている。したがってアトピー性皮膚炎を克服するためには、適時適切でしかも3年~5年と続く総合的な学習カウンセリングシステムが最も重要になってくる。