「温泉湯治でアトピー性皮膚炎が治る」この真実を、医者だけでなく、この国そのものに認めさせたかった。なぜか?健康保険を適用させ患者の負担を軽減するためだ。
そして、温泉湯治が“民間療法”の枠を飛び越え、堂々と“正統な医療”として認知されるようにするためだ。
理想を叫ぶだけでは世間は動かない。ならばこちらから動いてやろう。温泉の宅配だけでは終わらせない。
自前の湯治施設を会社で所有・運営し、形にしてやる。
その時、天がゴングを鳴らした。
福岡県うきは市——。
国民保養温泉地の指定を受けた名湯・吉井温泉に、一件の物件が出た。
「これだ!」火の玉のような行動力にスイッチが入った。話は電光石火でまとまった。
36室すべてが個室温泉つき。アトピー性皮膚炎に特化した専用温泉湯治施設。
——九州ホスメックリカバリーセンター!
しかも、アトピー性皮膚炎専用温泉湯治施設として地域の管轄保健所の正式認可も取得。これはもう日本初、いや世界初の快挙だった。
開業を前に、私は川田を連れて現地を訪れた。見渡す限りの青空と湯けむりの中、胸を張ってこう言った。
「見ろ。とんでもないことになってきただろ? ここに医師を常駐させれば完璧だ。お前と息子でこの会社を継いで、未来を創るんだ。すごい未来が見えてきただろ?」
川田は「そうですね」と言った。だが、その言葉とは裏腹に、顔にはどこか影が落ちていた。
だが――そんなことはこの時の私には見えなかった。
見えていたのは、温泉から立ち昇る希望の蒸気と、「民間療法」と蔑まれた湯治が「国家に認められる医療」へと昇格する可能性だ。
今、風は追い風。湯けむりの向こうに、新しい医療の夜明けが見えていた。