まさかとは思うけどさ──
「現代医学は、もはや自然治癒力がどうのこうのと議論するステージはすでに超えている。見るべきは未来だけだ」
「医学には犠牲がつきものだ。少数を救えずとも、多数を救えばそれでいい。過去は振り返らない」
…なーんて、まるでSF映画の悪役みたいなセリフを、本気で口にする医者がいるとは思えないんだよな。だって、そんな冷血な名言、誰が信じる? 誰が言った?
10年くらい前の記憶がふと蘇る。ネットの片隅、どこかのホームページで見かけた気がする。「〇〇教授とゆかいな仲間たち」なんてタイトルがついてたような…。小説だったか、ドラマの一幕だったか。いや、もしかして幻聴? いやいや、歳のせいでボケが来たのかもしれん。そんなセリフを本気で残す医者なんて、現実にはいないだろう。
医者ってのは、毎日命と向き合ってる。救えなかった命の重さを、肩に背負いながら生きてんだよ。そんな人間が、「犠牲は必要」なんてサラッと吐けるわけがない。
この本を書いていて、ふとそんな記憶がよみがえったって話だ。
誰が言ったかもわからない、どこで見たかも曖昧なその言葉──だけど、それが「現代医学の姿」だなんて、冗談じゃない。
命を扱う現場には、もっと泥臭くて、もっと人間臭くて、もっと切実な現実があるんだよ。
それと「……ゆかいな仲間たち」と近い名前の付いた団体さん。すまんな、君たちのことではないよ。ご迷惑がかかってしまったら許してくれ。