先日、久しぶりに息子から電話がきた。
まあ、事務的なやり取りはこれまで何度かあったけど、この日の会話は、なんとも”禁断の領域”に足を踏み入れちまった。ふとした拍子に、俺が口にしたんだ。
「お前が、俺を会社から追い出したんだよな?」
電話の向こうで、ピタリと息子の声が止まった。
沈黙。長い沈黙。
俺はあえて黙っていた。答えは知ってるが、息子の口から聞きたかった。しばらくして、絞り出すように息子が言った。
「父さんのやってたこと、あとからどんどん科学が正しいって証明していった。あのときは、古臭いとか非科学的だとか、エビデンスがどうのこうのって、………..本当にすまなかった」
どうやら、ようやく分かったらしい。テレビで誰かが言ってるから、新聞が書いてるから、権威のある人言っているから、それが正しい。
そんなもんを鵜呑みにするのは、真面目で正義感の強い奴ほど陥りやすい。今の“常識”が、明日の“非常識”になる――それが科学ってもんだ。
だから大事なのは、目の前の本質を見抜く力なんだよ。でもそれには、凡人じゃ無理だ。
…いや、言い方を変えよう。
頭のネジが1本くらい外れてる奴じゃなきゃ、できねぇ芸当だ。私がそうだったようにな。
だから言ってやったんだ。
「日本オムバスでがん治療ビジネス、やってみろよ。今こそだ」
そしたら息子、またもや言葉を濁して、
「でも…命がかかってるし、それはちょっと……」
怖ぇんだろ。分かるよ。私だって最初はそうだった。
でもな、腹が据わった時、人間ってのは化けるんだよ。会社の経営がまだ火の車じゃねぇから、そんな悠長なことを言ってられる。
だがな、いざ本当に背水の陣になったら――
そのときは、なりふり構わずやればいい。そうしなきゃ生き残れねぇ。
俺がここでやってることは、何も特別な才能じゃない。ただ、誰よりも“信じて突き抜けた”ってだけの話だ。儲かんないけどね。
だから言ってやった。
「お前は私より上手くできる。覚悟があればな」