数週間後、サハリンから届いたログハウス用の丸太は、見る者を黙らせるような迫力だった。なんと樹齢100年超えの極太材。まるで北の大地が長い時をかけて育て上げた生きた彫刻。
だが——事はそう簡単には進まなかった。
港に長らく荷止めされていたせいか、木材はすぐには組める状態じゃない。さらに驚くべきことに、ログ材の肝心の「カット」がまったくされていないという“未完成パズル”状態。
地元の大工たちは一目見て首を横に振った。
「これは……無理だべ」
ならば——動くしかない。
私は即座にサハリンへ連絡。現地のログ職人4人を緊急招集。極寒と闘いながらログハウスを刻み続けてきた、まさに木の猛者たちだ。
そして、異国から来た4人の職人と、私——湯治の鬼・小川がタッグを組んだ。
言葉の壁?文化の違い?知ったことか。メジャーを持ち、図面を握り、私は現場監督として4か月間ログ材と格闘した。
木を削り、組み上げ、叩き込むたびに、魂が宿っていく。建物はついに完成した。これが、ただの宿泊施設だと思ったら大間違い。まるで大地が唸り声を上げて生み落としたような、威風堂々たる極太ログハウス。見る者の背筋を伸ばす迫力だ。
だが——私はそこで立ち止まらなかった。
この原生林に囲まれた土地、どうも中央部の地盤が緩い。そこで決断。
「真ん中の木、思いきってぶった切って、固め直すぞ!」
即座に10tトラック1500台分の土を投入し、重機で徹底的に転圧。容赦なし。
仕上げに「癒しの紅葉」を植えようと、植木屋にこう伝えた。
「いいモミジがあったら片っ端から持ってきてくれ。何本でもいい、全部植える!」
そうしてできあがったのは、まさに“癒しのフィールド”。
原生林に守られた、太古のような静けさ。どっしりと腰を据える極太ログハウス。
秋になると燃えるように染まる紅葉が風に揺れ、視界を染める。足元には渓流・秋田川がさざなみを奏で、癒しのBGMを奏で続ける。そして、湧き出るは天然100%のモール温泉。湯けむりすら神々しい。
もう、完璧すぎて笑えてくる。
こんな場所に泊まって、病気が治らないほうが不自然だ。何もするな。ただ温泉に浸かって、紅葉を見て、深呼吸すればいい。病だってこう言うに違いない——
「参りました。もう出ていきます…」
ここはただの宿じゃない。
魂までととのえる、“生き返りの聖地”なのだ。