出版社を呼びつけた。
「これが命を削って書いた原稿だ。もう一度、世に出す。だが内容は少し手直ししてくれ、タイトルも変えて構わん」
しばらくして、できあがってきたのがこの一冊――
『治りたければ3時間湯船につかりなさい』
なんでそんなタイトルになったのかって?
理由は単純明快。原稿のオリジナルは全部、ホームページに載せたかったんだ。できるだけ多くの人に読んでもらうために。無料でだ。
出版ってのは、聞こえはいいけど、実際は財布が泣く。初版を出すだけで200万、いや、場合によっては300万。それでも宣伝しなけりゃ、本は本棚の肥やしで終わる。その宣伝も結構かかる。
売り上げ? 印税? ハッキリ言おう、これまで何冊か出したけど、まともに印税なんて貰ったこと、ない。だから考えたんだ。
新聞の全国紙にでかでかと**『治りたければ3時間湯船に浸かりなさい』**の広告を打つ。
でもって、読者をホームページへ誘導。そこで本当に伝えたいこと――
**『体を温めればガンは消える』**を無料で読んでもらう、って寸法だ。
次は、ホームページも大改造だ。業者を呼び寄せて、全面リニューアル。
名前も変えた。
かつての「ログハウスペンション摩周苑」はもうない。
新たな名は――長期滞在温泉湯治施設 摩周苑
観光客? 切った。
もう誰かの「ついで」に選ばれる場所じゃない。こっちは背水の陣。退路はない。命がけだ。
だが、現実は甘くなかった。
温泉水のチラシを打ったとき、テレビでPRして、電話が鳴り止なかった時のような忙しいさわなかった。
そのなかで、1日2~3件、涙声で「助けてください」と毎日のように電話がかかってきた。今も続いている。
その声は、まっすぐ心に刺さった。嘘のない、苦しみの声だった。私はそういう人たちの力になりたくて、ここまでやってきた。
けれど、今は受け入れられる長期滞在は月にせいぜい1~2組。毎日のように2~3件予約を受けると摩周苑パンクする。だから、自宅でできる温泉湯治のやり方も、ホームページに丁寧に載せておいた。
そして、問い合わせをいただいた遠く離れて自宅で湯治を続ける人には、無償でずっと、励まし続けている。
なぜって?
それが私のやりたかったこと。そして私の戦い方だ。