それからというもの、宿はちょうど良く賑わい始めた。
あまりの紅葉の美しさに観光客がふらっと立ち寄る。噂を聞いて湯治を目的に腰を据える者も現れる。毎日が温泉と自然と笑いに包まれて、摩周苑はなんとも心地よい気の流れる場所になっていた。
地元のおばちゃん2人に手伝ってもらいながら、経営は何とか黒字ライン。給料もちゃんと払える。おい、奇跡か? …いや違う、これは俺がやってきた“信念と執念”の結果だ。
とはいえ、正直なところ、退職金も貯金も、底が見えていた。これが滑っていたら、今ごろ俺は河原でテント暮らしか、温泉泥棒で捕まってたかもしれない。
だが、助かった。命拾いしたぜ。
少し余裕ができたある日、ふと我に返る。
「定年退職して、ペンション経営しながら余生をのんびり…」
うん、それも悪くねぇ。最高の上がりだ。
だが!私の性分は、そこで止まらない。
「私は、このまま“余生”なんて言葉に埋もれて終わるタマじゃねぇ!!」
アトピーの時と同じだ。あの時、全国に5万人の会員を抱えた“アトピー友の会”を作った。家庭で温泉水を使う「自宅湯治」が流行って、家族みんなで朝晩温泉。子どもがアトピー、じいちゃんがガンなんて家庭も珍しくなかった。
で、私は気づいたんだ。
「おい、じいちゃんも温泉入ってたら、ガンがよくなってるぞ!?」
これはもう一発ある。今度のテーマはがん湯治だ。
摩周苑でガン患者と寝食を共にし、彼らの湯治をガチで観察した。
温泉、自然、休息、食事、笑い、語り合い。
そして俺は確信を持った。
「ガンに勝つのは、◯◯◯だ!」
その情熱を、そのまま本にぶち込んだ。
ガンの自然免疫療法 ~ぬるま湯浴のすすめ~
2007年8月25日 花伝社より刊行!
新版 ガンの自然免疫療法 ~ガン患者よ湯治場に逃げろ!~
2009年5月19日 花伝社より刊行!
書店に平積みされたそのタイトルを見たとき、俺は小さくガッツポーズをした。
ただの温泉オヤジじゃ終わらねぇってこと、証明してやったのさ。
戦いは続く。温泉の中で、まだまだ俺はアツく燃えている。