小川秀夫の温泉湯治物語

「癒し」って何か分かってんのか?

「癒し」とか「癒される」とか、最近よく聞くけどさ。君たち、それ、本当に分かってんのか?

温泉につかって「はぁ〜癒された〜」なんて、みんな口をそろえて言うわけだ。でも聞くぞ、一体何が癒されたってんだ?

「体があったまって、リラックスできたからじゃないの?」──はい、出ましたテンプレ回答。まあ、それも間違っちゃいない。けどな、浅い!ぬるい!表面だけ!

本当に癒されたかったら、**その温泉の“温度”**に注目しろ。特に私が推してる“ぬるま湯”──37度から39度(季節環境で変わるぞ)。不感温度ってやつだ。これな、ただの気持ちいい温度じゃねぇ。お前が母親の腹の中でプカプカ浮かんでた頃と同じ温度なんだよ。

そう、あの無意識の世界。意識もまだ芽生えてねぇ、目も耳も未発達なあの時代。お前の細胞は、**羊水の“音”**を感じてた。トポン、トポン。耳じゃなく、細胞でな。

羊水の中には、生活の音が微かに混じってる。カサカサ、コトコト。クラシック流してる母親もいたかもしれない。胎児のお前は、そういう優しい音に包まれて育ってたんだ。

そして今、自然の中でぬるま湯に浸かるってことは、**その頃の感覚に限りなく近づくことなんだよ。**風が葉を揺らす音、鳥のさえずり、遠くの川のせせらぎ──それらが混じり合って、お前の細胞に直接語りかけてくる。

つまりな、**温泉湯治ってのは“母の胎内リターンズ”**なんだよ。

お父さんもお母さんも、お腹に手を当てて「元気に育てよ、健康に育ってね」って毎日話しかけてただろう? そうやって祈られて、お前はこの世に出てきた。その記憶、まだ細胞が覚えてんの。

温泉ってのは、その記憶を呼び起こす場所なんだ。

湯気の中で、揺らいでた全身の細胞の周波数が正されていく。ピシッと整う。命のチューニングだ。

「癒し」「癒される」ってのは、リラックスなんて生ぬるいもんじゃねぇ。

それは、お前が“命の原点”に一瞬だけ戻って、もう一度スタート切ることなんだよ。

わかったか?

温泉に浸かってるだけじゃないんだ。魂が、細胞が、再起動してんだ。
それが本当の「癒し」ってもんだ。