**「治りたければ3時間湯船に浸かりなさい」**を発売後、特に電話が殺到したわけじゃない。それでも、発売して数ヶ月は結構忙しく電話が鳴ってた。ほとんどが、こうだ。
「先生…感動しました」
けっこう、医者からの連絡もあるんだ。そうだよ、医者が診てる患者と同じ病に苦しんでるのが自分の家族だったりする。
自分で治してあげればいいて思うだろ。現代医療の限界ってのは医者が一番知っているの。愛する家族のためならなりふり構っちゃいられないわけ。
意外か?経営者も多いぜ。
一旗揚げて大成功したような奴ら。そういう人間は、決断と行動が異次元レベルで速い。医者に「癌はステージ4です」と告げられてストレスでさらに悪化してもな、摩周苑でならと思ったら、なんとか生きようとして腰が曲がろうが、足がふらつこうが、這ってでもずってでもここに来る。
そして湯に浸かる。3時間、毎日。
3ヶ月も経てば――曲がってた背筋がピン!と伸びる。足取りもしっかりする。
「お前、余命4ヶ月って言われてたよな?」
「はい、もう6ヶ月目です。……死んでるはずだったんですけどね(笑)」
こんな馬鹿話を冗談みたいにできるようになるわけだ。そんでな、1年も湯治を続けると見た目は完全に健康体だ。
「先生、もう大丈夫です。会社に戻って、またバリバリやります!」
普通の人間なら、嬉し涙でも流しながら見送るんだろう。
でも、俺は違う。
「あぁ……わかってねぇな。私の言ったことの本質を理解できなかったか」って、ため息が出るんだ。
あのな、まだお前の体は“完全”じゃない。自然治癒力がちょっと上回ってるってだけで、まだギリギリ綱渡り状態なんだよ。それでも元気だから勘違いしちゃう。
でもな、お前が戻るその世界――
癌という“業火”をお前の体に生ませたその世界だぞ。会社に戻れば、周りはこうだ。
「え、まだ生きてたの?」
「湯治?何それ?病院行かないの?」
何も言わなくても、その空気が心をじわじわと締め付ける。
検診に行けば医者がこう言う。
「奇跡ですね!今なら抗がん剤治療、いけますよ!」
テレビをつければ芸能人が「癌で亡くなりました」のニュース。
毎晩、目と耳から、“死”のイメージが流し込まれる。やっと現代医療の呪縛から逃れかけた心身に、これは拷問だ。だから無我夢中で仕事にのめり込む。必死に忘れようとする。
でもな、戻った世界には酒と女が待ってる。快気祝いだ!不死身の男なんて煽てられ、ついつい昔の女の元へ
ずっと支えてくれた妻に加え、いけないと知りながら惹かれてしまった女――その心の葛藤こそが、あの癌を巨大化させた元凶だったんじゃねぇのか?
一番戻っちゃいけない場所に、また戻る。
そして――案の定、再発。
気づいた時には、ベッドに寝かされ、体中にチューブだ。
でもな、生き残る奴もいる。
何が違うか?
そいつらは、学んだんだよ。
もう二度と、あの世界にどっぷり浸かってはいけないと気づいていた。不安やストレスを感じたら、すぐに湯治に戻ってリセットできる術を身につけた奴らだ。
そして、自分の生き方そのものを見直した。考え方を、価値観を、人生を根こそぎひっくり返して、新しい世界に踏み出した。
それができた人間だけが、本当の意味で「癌を超えた」と言えるんだよ。