小川秀夫の温泉湯治物語

あの顔が載っていたのだ。安保徹先生

「アトピー性皮膚炎無料情報誌――あとぴナビ」

毎月、律儀に届く。送り主は…息子たち。ふん、よくもまあ、どのツラ下げて送ってくるもんだ。この私を会社から追い出したくせに。

ま、いい。肩書きはまだ会長様だし、株も過半数以上持ってるオーナーだ。向こうも“完全には切りきれない”ってわけか。ちょっとはビビってるのかもな。

で、いつものように、封筒を開ける気も起きず、ポイッとゴミ箱に向かう途中…

ふと、目に留まった。

あの顔が載っていたのだ。安保徹先生。私の胸に、ズドンと響いた。先生は、自然治癒の力をずっと発信し続けていた偉人だ。

厚労省がアトピービジネスと一括りし締め上げにかかった時、私たちを本気で守ってくれた人。その先生が、私のいなくなったオムバスに、いまだに寄稿してくれている。私みたいな者を庇ってしまったせいで不遇な思いをしたかもしれないのに….

…私は、言葉を失った。

会社から追い出されたことなんかより、人としての恩義に触れたような気がした。だって、安保先生とは面識すらなかったんだ。それでも先生は、ずっと、信念で支えてくれていた。

私はついに我慢できず、初めて行動に出た。

「連絡先を教えてくれ。会いたいんだ。直接、お礼が言いたい。」

会社を追われてから、初めての“オムバス経由”の連絡だった。

だが、そんなのどうでもよかった。男として、恩を感じたら、礼を言わずにはいられない。それが私の流儀だ。

そして、心に新しい炎が灯った。

「まだ、終わっちゃいない。この湯治道も、生き様も――これからが本番だ!」