アトピー性皮膚炎って聞くとさ、「あぁ、つらいやつね」ってくらいの認識で終わる人、多いんだよ。でも、現実はもっとえげつない。
そのアトピーを背負いながら伝説を作ったある男の話をしようじゃないか。
彼は当時、受験生。しかも、今風に言えば「イケメン枠」。だけど、重度のアトピー。皮膚が荒れ、心もすさんで、部屋から一歩も出てこない。引きこもり状態さ。
そんな彼が私の元に来た。ある意味、人生の崖っぷち。で、話したわけよ。3時間温泉にはいる、湯治の真髄を。
そう、脱ステロイドと温泉湯治の話。
驚いたね。普通なら聞き流すような話を、目をギラッとさせて真剣に聞いてくる。姿勢も崩さない。まるで修行僧。逆にこっちが疲れちまったよ。
「先生、それはつまり、温泉に入れば入るほどいいってことですか?」
「その通り。ただし、疲れない程度にな」──と、こう返した。
食事のことを聞いたら、「親が送ってくれるので大丈夫です」って。ああ、なるほど、アレルギーあるんだなと察したよ。部屋は別棟の温泉付き個室。受験勉強もしなくちゃならんしな。
で、だ。
1週間、2週間……経っても、顔を見せねぇ。まぁ、部屋に荷物は届いてるし、飯は食ってんだろうと思ってた。ところが、3週間、4週間経っても、まっっっったく姿を見せねぇ。
いい加減心配になって、部屋の前でドア叩いた。反応ねぇから「おーい!」って叫んださ。そしたらようやく、バスローブ姿でひょっこり出てきた。
「おい、全然姿見せないけど、何してんの?」って聞いたらさ、
「温泉湯治してます」
お、おう。
「まさか24時間ぶっ通しってわけじゃないよな?」って返したら、
「はい、食事と睡眠以外はずっと湯船にいます」
……お前、マジか? ふらふらにならねぇの? 受験勉強とかしてんのか?って聞いたらさ、
「体は絶好調です。勉強は湯船でやってます。頭がスッキリ冴えて、むしろ捗ります。」
──って、さらっと言いやがった。
正直、信じられなかったよ。けどな、その受験生。
そのまんま試験まで湯治生活を貫き通して、東大法学部、
──一発合格。肌もツルツルぴっかぴか
ね?信じられねぇだろ? 私もだよ。
でも、それが現実。湯治の力と本人の意志が本気でシンクロしたとき、奇跡なんてあっさり超えてくる。
若さって羨ましいよな。だけどよ、これ、若さだけの話じゃねぇ。
本気で変わりたいなら、湯の中で人生ひっくり返すことだって、できるんだよ。